神の化身
高校3年生の続きです。
実は、このおじさんの話がなければ、
今日の私はおそらく無かっただろうと思います。
おじさんの話は概ね次のようなものでした。
「おじさんは大工だ。学歴もない。だが、誰にも負けない大工としての腕がある。」
おじさんは誇らしげに語る。
「今建ってるこの場所は一月前までは何だったか知ってるか?」
「はい、空き地になってて、車が2、3台止まってたように思います。」
「じゃ10年前のこの辺りはどうだったか知ってるか?」
このおじさんは何を言おうとしてるんだろうと思いながら、
10年前は7〜8歳だから知る由がないというより記憶になかった。
「いえ、知りません」
「あはは、無理もないよな。小さかったからな。」
「あのな、この辺一帯はほとんどが畑だった。だが今はこうして家が立ち並ぶようになった。」
おじさんは懐かしそうな顔で淡々と語る。
「おじさんたちが1棟1棟手づくりで丹念に家を造ってきた。」
「その家に家族が入り生活が始まる。」
「孫たちが遊びに来て賑やかになる。」
「夕飯時になると料理の匂いがぷ〜んと辺りに漂う。」
「家を造るって事は、そういう舞台装置を作ってるのと同じことなんだよな。」
「新居に引っ越してくるときのお客さんの喜びが感動になり、
おじさんに向かって何度も何度もお辞儀をして、ありがとうと言ってくれる。」
おじさんは不意にこちらを向き、
「おじさんはな、そんな時、この仕事を続けてきて良かったといつも思うんだよな。」
いかつい顔が、
いつしか優しい顔になっていた。
「おまえもこれから社会人になるんだろ?」
「世間は厳しいからなあ。」
「だがどんな厳しい世の中になっても、腕に職を持っていればどうって事はない。」
「飯は食える。」
「だから、どうせ仕事をするんなら、人様に誇れる一生涯の仕事を持つことだよな。」
「学歴のないおじさんだってこうして世間様に喜ばれる仕事をしているんだ。」
「学歴だけで飯が食えると思ったら大間違いだ。」
「腕に職を持ち、楽しく仕事できればそれが一番だ。」
ここまで話を聞いていて、
私は、このおじさんは凄いなあと思った。
「人に喜ばれる仕事」
「人に感動される仕事」
「腕に職を持つ」
「楽しくできる仕事」
「一生涯をかける仕事」
私は、
この大工さんが語ってくれた言葉を復習してみた。
なるほど、そうかもしれない。いや、そうだ。
今から思いますと、
もしかしたら、この大工さんは神の化身で、
私の進路を決めてくれたのかの知れない。 そんな思いをしています。

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